金継ぎ - 東京 南阿佐ヶ谷で続く伝統工芸に学ぶ「壊れたものを生かす精神」 image

金継ぎ - 東京 南阿佐ヶ谷で続く伝統工芸に学ぶ「壊れたものを生かす精神」

「壊れたのもを処分しないで、隠さずに、より美しく作り直せばいい」
多種多様・SDGsが謳われている現代に通じる精神が、日本伝統工芸「金継ぎ」に根付いていました。

この記事では、東京で「手仕事屋久家」を営む陶芸・金継ぎの講師である、久家義一郎・淑子夫妻に、金継ぎ通して伝えたいメッセージや想いなどを取材してきました。そこには、日常や仕事への向き合い方に役立ちそうなヒントが転がっていました。

日本の陶器や金継ぎの話から、ものの捉え方・考え方、困難に対峙した時の心構えなど、私たち一人ひとりに訴えかけるようなお話も盛りだくさんです。

安土桃山時代から続く日本伝統文化「金継ぎ」とは

金継ぎは、ひび割れたり、欠けたりした陶磁器の破損部分を漆を使って接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法です。

安土桃山時代、千利休(茶道の先駆者)の影響で日本に茶道文化が広がったのを機に、そこで使用される茶器の流通に伴い、その修復技法の一つとして「金継ぎ」も誕生しました。

「手仕事屋久家」のはじまり ~ご夫婦のこと~

ワクワクに出会うのは、案外ひょっとしたことがきっかけなのかもしれません。大切なのは、心を開いてアンテナを張り、感性を研ぎ澄ませること。意外と身近なところに心が躍る何かが潜んでいたということも。

- まずはじめに、ご夫妻が「金継ぎ」に出会った、もしくは「陶器」「陶芸」に出会ったきっかけは何だったのでしょうか。

淑子:私は、自分の家族にルーツがあったと今になって感じています。亡くなった父の影響で骨董屋さんに仲良しの知り合いが多く、もともと家にたくさんの器がありました。日本には四季があり、季節ごとにタンスの洋服を入れ替える「衣替え」がありますが、当時私の家では季節ごとに食器棚の食器を入れ替える「器替え」という習慣があったのです。

例えば、暑い夏は涼し気なガラスの器にフルーツを入れたり、寒い冬はしっかりと重みがあり、暖かさが感じられる陶器を使ったり。そのため、幼少期から毎回の食事の中で様々な器に囲まれて育ち、自然に興味関心が湧いていきました。

- なるほど。幼少期から自然に「器」に囲まれていたのは素敵な環境ですね。また、「器からも季節を感じる」というのは、和食特有の文化だと実感しました。では、「金継ぎ」との出会いはいかがですか。

淑子:骨董屋巡りが大好きで、ご店主さんと話している時に、「同じ器は手に入らないから、壊れても捨てるのではなく直すという技法がある」ということを知りました。それが「金継ぎ」だったのです。

義一郎:私は、もともと「ものを作ること」が好きでした。工業高校出身で、卒業後は電気関係や車関係の仕事をしていました。仕事先の知り合いが連れていってくれたのが淑子さんの教室で、それが淑子さんと陶芸と金継ぎとの初めての出会いでした。それからどんどんのめり込み陶芸や金継ぎを学んでいきました。

日本陶磁器の歴史

手の中に収まるほどの大きさの器の中に、製作者の願い、希望、こだわりが全て詰まっています。そのストーリーは昔を生きた職人さん達からの「メッセージ」のようです。

- お話の通り、日本の食卓には「陶磁器」は欠かせない存在ですね。日本独自の形や絵柄について紹介していただけますか。

淑子:はい、器一つひとつの形や絵柄に意味や歴史があります。例えば、牡丹の花には「ずっと美しさが続く」という意味が。他には、ネバーエンディングの柄(内側)と窓から花を眺めた絵柄(外側)の組み合わせで「人がゆったりと窓の外の花を眺めるような、そんな平和な文化がずっと続きますように」と願いを込めたものなどがあります。

また、海外の方は、器の「ストーリー」や「ラッキーアイテム」に興味関心を持たれることが多いです。例えば、鶴は夫婦で一生連れ添うことから、「夫婦円満」の象徴、亀は「長寿」の象徴で、とても縁起がいいですよね。

加えて、器を直す技法として「呼び継ぎ」というものがあるんです。別の陶器の破片や、ビー玉やおはじきを埋め込むようにして、器を再構築するような技法です。渋い色の陶器にカラフルなガラス玉を使うこともできますよ。ある方が「アントニオ・ガウディの建築みたいね」と表現していたのがとても印象的でした。

「心を整える作法」としての金継ぎ

家族や友人との人間関係に、仕事に家事育児。一生懸命生きていれば、時には「壊れる」ことは当たり前。大切なのは、そのあと誰に助けを借りて、どう修復するか。

- 2021年に開催された東京パラリンピック閉会式で、パーソンズ会長が大会に参加する選手達と金継ぎ文化を照らし合わせ、「誰もが持つ不完全さを受け入れ、隠すのではなく大事にしようという考え方です」と述べたことも記憶に新しいですね。そこからは、単なる「壊れた陶器を直す技法」を超越した、「精神論」や「人生の教訓」のようなものがこもっているとも感じ取れます。

義一郎:本当にそうですね。例えば、日本語では「心が壊れる」という表現があまり日常的でないように思います。逆に欧米では、学校や企業にカウンセラーが常駐していることも多く、気軽に相談に行ける環境があります。「失敗しないことがいい」「壊れる人は弱い人だ」という感覚は全くなく、むしろ「生きていれば心が壊れる時があるのは当然。大切なのはそれをどう修復するか」という考え方なのですね。

海外からの体験者には、その壊れた心をどう直すかを自分で学ぶために金継ぎを学ぶ人も多いんです。カウンセラーや心理学者、外科医、弁護士、学校の先生などの参加者が本当に多いです。

淑子:金継ぎ体験の時に、刻銘に写真を撮っていかれます。患者や生徒に説明するためだそうです。こんなに壊れている心でも直るんだと説明するメタファーのために。「足りなかったら他のものを持ってきて足せばいいのよ」って。

義一郎:壊れた後に直して、装飾をしてさらに美しくなって、むしろ強くなって。心を補修する直接的な道具は存在しないけれど、金継ぎからヒントを得ようとしているようでした。

淑子:金継ぎを体験しながら、個人的な過去や仕事の話も聞かせていただき、「壊れた」「失敗した」「怖い」という一見ネガティブな感情でも、ポジティブに前向きに捉えることができるのだと、体験者から学ぶことも多いです。「教えることは学ぶこと」と昔から言いますが、本当だなとつくづく思いました。

久家さんが考える「金継ぎ」の魅力と伝えたいこと

「金継ぎ」は黙々と進める作業。しかし、そこには個人の大切な思い出や人生への向き合い方があります。作業を通じてその全てと繋がっているということで、その感覚は日常生活の心構えにも確実に良い影響を与えてくれるでしょう。

- 金継ぎの技法のこと、心への影響のこと、たくさんのお話を伺いました。総じて金継ぎの魅力について教えてください。

淑子:「人の想いを継げること、繋げられこと」がすごくいいなと年々感じます。お客様の思い出の品をお直しする時は、その人と大切な人の思い出や愛情も一緒に繋いでいる感覚です。その器は他人が見たらなんの変哲もない器ですが、その人にとっては「たったひとつのもの」ですから。

義一郎:私が陶芸や金継ぎに出会い勉強を始めたのは、あくまで淑子さんと出会って以降のことです。それでも遅すぎたということは決してなく、ゼロから色々学びました。金継ぎや陶芸は「無」から「有」を作れることが最大の魅力。焼き物は、粘土の塊から形を作り、生活の中で実際に使える物ができることが面白いですね。

淑子:「大切な人の想いを繋ぐ」「壊れた心を見直す」きっかけになってほしい。とても単純ですが同時に複雑ですよね。相手と自分を大切にする。敬う。恐れる。ものを作りながら皆さんに伝えていきたいし、一緒に考えさせていただきたいです。

また、総じて「直らないものは何もない」と思っていただくのが一番。心にしても人生にしても、見つめ直して修復することができると信じています。

義一郎:あとは人生は、「好きであるかどうか」が基準だと思っています。お金が儲かる、いい暮らしをする、豪華な家を建てるとかではなく、「毎日好きなことをして、それで食べていける」ことができれば、それで御の字です。だから、例えば器を選ぶ時にも「その絵柄や形が好きかどうか」で選んでほしいです。古いものがいい、新しいものが悪いのではないですし、本に掲載されていることなども、一切関係ないです。造られた時代や話題性を気にしないでご自身の心が躍る方に進んでください。

そんな金継体験が、 東京で気軽に体験いただけます
日本の伝統文化に触れられるだけでなく、自分の価値観を見直すきっかけになるかもしれません。

インタビュー後記

お二人は丁寧に道具や手順の説明をしながら、自分達のこと、金継ぎへの想いの丈を力強くも柔らかい口調で話してくださいました。それと同時に、今までの体験者のこともそれぞれ刻銘に覚えられており、その分、このお二人は金継ぎ体験教室を開くことのみではなく、一人ひとりの参加者に「人」として真摯に向き合い、お互いに心を開いて語り合ってきた軌跡が伺えました。

また、色々な作品を見せていただいた際、私が手を滑らせて割りそうになってしまい謝罪した時に淑子さんが「大丈夫大丈夫。壊れたら直せばいいんだから」と優しく言ってくださったのが印象的でした。

出典・参考

やってみよっか?

ログインなしで「いいね!」
あなたに合った情報が探しやすくなります



余暇のアイデア人気ランキング

特集連載

あなたにおすすめ

「いいね」すればするほど、あなたの好みに合った余暇プランがピックアップされます
ログインなしで「いいね!」
あなたに合った情報が探しやすくなります