【アブハー】サウジアラビア体験記!中東の高原リゾートの魅力をご紹介
サウジアラビア観光といえば首都リヤド、港町ジェッダ、砂漠のオアシスとして知られるアルウラの3都市を結ぶ「ゴールデントライアングル」が定番とされています。主要都市を訪れて王道の観光ルートを辿るのも良いですが、せっかくの旅行ならちょっとだけ冒険して異なる地域に足を延ばしてみませんか。
今回ご紹介するのは、サウジアラビア西部に位置するアシール地方。他の都市に比べると、外国人観光客が圧倒的に少ないエリアで、中東ならではの異国情緒を肌で感じるには最適なディスティネーションです。
本記事では、実際に現地を訪れたベルトラスタッフの体験を交えて好奇心が掻き立てられるリアルなサウジアラビアの情報をお届けします。
標高2,000m以上!夏の東京より涼しいサウジアラビアの避暑地
皆さん、サウジアラビアと聞いて最初に何を思い浮かべますか?恐らく多くの人は石油や黄金の砂漠、ラクダをイメージするのではないでしょうか。
今回、筆者が訪れたのは アシール(Asir) 。想像とは異なる別世界で、中東諸国へのイメージが根底から覆されました。
スマホ1つで様々な情報が手に入る時代だからこそ、あえて体験する価値がある。五感を通じて体感した出来事は不思議と記憶に残るものです。
ここでは、そんな非日常的な体験にフォーカスしたユニークなサウジアラビアの魅力をお届けしていきます。
さわやかな風が吹く高原リゾート「アブハー(Abha)」
観光拠点となるアブハー(Abha)は、首都リヤドから飛行機で約1時間40分。
西部の港町ジェッダからは約1時間20分の距離です。国内線だけでなく、ドバイからの直行便も就航しておりアクセスは良好。
リヤドを出発して機内で本を読みながらコーヒーを飲んでいたら、あっという間に到着しました。
空港はコンパクトなサイズ感で迷子になる心配はありません。外に出ると真夏にも関わらず中東らしからぬ涼しい風に包まれて、ほんの一瞬だけ自分の居場所を忘れてしまいました。
筆者がサウジアラビアを訪れたのは、夏真っ只中の7月上旬。リヤドでは日陰でそよ風に吹かれていても、ドライヤーの温風を全身で浴びているような気分になりましたが、アブハーは夏場の東京より涼しい印象です。
アブハーってどんなところ?
アブハー(Abha)は、サウジアラビア西部に位置するアシール地方の中心都市。
標高2,200m以上の高原地帯で、豊かな地形や気候を生かした農業が盛んです。野菜や果物から、小麦やトウモロコシなどの穀物まで様々な食物が栽培されています。
こちらのアートは昔のアブハーを描いたものです。古くは交易で行き交うキャラバンの要地として栄え、独自の文化を形成したとされ、今日まで変わることなく受け継がれています。
緑豊かな自然はもちろん、歴史や文化といった面でも大変興味深いエリアです。
第一次世界大戦以前はオスマン帝国の支配下に置かれていたそうで、隣国イエメンに近いという土地柄、サウジアラビア100%というよりも多様な文化を兼ね備えた一面があります。
サウジアラビア最高峰「ソウダ山」
標高3,015mを誇るソウダ山は、アブハー観光のハイライト的存在です。
そもそも、州の名前として親しまれるアシール(Asir)とはアラビア語で「難しい」を意味するそうで、険しい山に登るのが難しい土地であったことに由来します。
現代では舗装された道が敷かれ車で気軽に移動できるようになりましたが、実際に訪れてみるとヘアピンカーブが連続する箇所がいくつもあることに気付きます。
30分ほどジグザグ走ると、ご覧のような展望スポットに辿り着きました。
途中では地元で採れた果物を売る露店、自宅の軒先で立ち話をする人の姿など、リヤドやジェッダでは見れないような何気ない暮らしの風景が垣間見れます。
サウジアラビアといえば緑に覆われた地形をイメージする人は少ないかもしれませんが、このような場所が存在するのは意外ですよね。
筆者が訪れた際はちょうどパラグライダーのタンデムフライトを楽しむ人の姿がありました。アブハー周辺には滝や渓谷もあり、ハイキングをはじめとするアウトドアを楽しむのにぴったりです。
ユニークな建造物の正体
アブハー郊外を車で走っていると、ご覧のような四角い建造物をよく見かけます。これはアシール地方に受け継がれる伝統建築で、石や泥、干し草などを組み合わせて造られているのだそう。
幹線道路沿いにはこれをモチーフにした立派なモニュメントがありますが、郊外の住宅地には普通に紛れています。よく見ないと気付かないかもしれませんが、筆者はこういった風景に心が揺さぶられます。
とはいえ、知らない人の居住区域に無断で立ち入るわけにはいかないので、気持ちをグッと抑えて車窓からの景色だけで我慢しました。
少し遠くて見づらいと思うので、拡大したものをもう1枚。
聞いた話によると、これらの建築様式はそれぞれの村で若干異なるようで地域の気候条件に合わせた工夫が施されています。ご覧のような廃墟は何百年もの築年数を誇るといわれ、高い耐久性があるという事実が認められます。
コーカサスのジョージアという国のウシュグリ村にも似たような石造りの塔が立ち並んでいます。山肌も似たような場所があり、遠く離れた国でありながら不思議な共通点を見い出しました。
郷土資料館で伝統の生活様式を学ぶ
こちらは Generations Heritage Museum という小さな郷土資料館です。よく見ると建物の上部に薄っぺらい石が何層にも積み重ねられているのが分かります。
これは土壁を雨から守るための工夫で、建物の強度を保つ役割も果たしているようです。砂漠の国でも比較的降雨量が多い地域ならではの知恵ですね。
この地方ならではの特徴は内部にも見られます。アシール地方では内装にカラフルなペイントを施す習わしがあり、古くから伝統のデザインが地元の女性たちによって受け継がれているのだそう。
興味深いのはこれが過去のものではなく、現代においても親しまれているという点にあります。アシール地方で民家を訪れる機会があったら、ぜひ目を向けてみてください。
館内には狩猟や農業に用いる道具から生活雑貨に至るまで、ありとあらゆる品物が展示されています。
展示物の中に、なぜかナショナル(現:パナソニック)の電池も含まれていました。まさか、サウジアラビアの奥地で昭和レトロに出会えるとは!
家具はバラを全面に押し出したデザイン、政府観光局の方によるとサウジアラビアにはバラのデザインが多いようです。
壁には色鮮やかなアート、もちろんカーペットも柄物なのでとにかく派手です。
気付いたら施設のオーナーとガイドさん達がスマホで音楽を流して踊っていました。オーナー曰く、近所に住む人たちは親戚で家を建てる時などはみんなで助け合っているそうです。
ガイドさんの熱意が伝わる説明といくつかの実演のお陰で、古き良き時代のサウジアラビアにちょっとだけタイムスリップした気持ちに浸りながら見学を楽しむことができました。
正直なところ、今この瞬間も旅の記憶を辿りながらノスタルジックな気分に浸っています。「旅っていいな」と改めて実感しました。
サウジアラビアに来るまで人のイメージはあまり湧かなかったのですが、実際に訪れてみると親切でフレンドリーな人が多く、はじめて訪れたとは思えないような居心地の良さを感じました。サウジアラビア人のホスピタリティーは日本と似たような部分があります。
ローカル感満載のスークでショッピング
アブハー中心部には Tuesday Market と称されるスークがあります。
Tuesday(火曜日)なので曜日限定かと思いきや、水曜日でも営業していました。なぜ火曜なのかは置いておいて、到着するや否や探し求めていたローカル感にようやく出会えた嬉しさで思わず歓喜の声が出てしまいました。
これですよ、これ!
スーク(Souk)はアラビア語で「市場」を意味するのですが、日本の市場のように早めの時間帯だけ営業している訳ではありません。Tuesday Marketは夜でも営業しているので、遅い時間でも気軽にショッピングが楽しめます。
テナントの数はしっかり数えていないので正確にはお伝えできませんが、少なくとも30店舗以上はあると思います。アバヤやソーブといった民族衣装はもちろん、日用品や生活雑貨、香水、特産品のハチミツまでバラエティー豊富なラインナップを誇ります。
こちらはヘナタトゥーでお馴染みの「ヘナ」です。イスラム圏の女性達の間ではポピュラーな存在で美容やファッションに欠かせません。
日本人が見たら抹茶だと勘違いしそうですが、サウジアラビアで緑色の粉を見かけたら高確率でヘナだと思って間違いないです。
可愛すぎるカゴを見つけたのですが、用途が分からず断念。筆者は現実主義なので、欲しいと感じても一度よく考えてしまうことが多いです。
結局買わなかったのですが、やっぱり可愛いですね。後で見たら欲しくなってきました。
洗濯カゴとして使うのも良さそうですが、正しい用途をご存知の方が居たらぜひ教えてください。
世界が認めるアシール地方の郷土料理
その土地ならではのグルメを食べるのは、旅の楽しみのひとつ。
サウジアラビア料理の食材は米や小麦、鶏肉、羊肉など日本人に馴染みのあるものがメインで、味付けも食べやすいという声がよく聞かれます。
国土が広大なので地域によって食文化はかなり異なりますが、近年注目を集めているのが アブハーを含むアシール地方の郷土料理 です。
2024年にはIGCAT(国際美食文化芸術観光研究所)による世界ガストロノミー地域賞の授与が決定しているそうで、今後さらに注目を浴びることが期待されます。個性的な食文化はもちろん、地元の人々が伝統文化を大切に守り続ける姿勢も評価されているようで、ヨーロッパ以外の国の受賞はサウジアラビアが初となります。
アブハーでは、 Areeka(アリーカ) という料理の実演を交えて奥深い世界を少しだけ覗き見してきたので、その様子をレポートしたいと思います。
完全予約制!アブハーでお宅訪問
今回お邪魔したのはアブハー郊外に位置する Al Asas(アル・アサス) というご家庭。その名の通り、アサスさんの自宅の一部を改装したレストランです。(※要事前予約)
白壁と青空のコントラストが美しく、ここだけ見たら地中海リゾートのよう。ふとギリシャのミコノス島にある建物を思い出しました。
サウジコーヒーでおもてなし
中には素敵な絨毯が敷かれており、「カーペットの上に食べ物を広げて食べるイスラム圏特有の食事スタイルですね」とワクワク!
皆さん、イスラム圏には日本と同じく床に座って食事をする習慣があるのをご存知ですか。こんな素敵なロケーションでピクニック気分を味わいながら食事を楽しめるだなんて最高ですよね。
調理の準備を行っている間には、サウジコーヒーが振舞われました。オレンジジュースのような見た目ですが、立派なコーヒーです。
これは「カフワ(Qahwah)」と呼ばれるアラビアコーヒーの一種で、黄色の正体はカルダモンというスパイス。中東諸国へ旅行したことがある人は試したことがあるかもしれません。
アブハーの主食「Areeka(アリーカ)」
いよいよ、お待ちかねの実演タイム!小麦粉に水と塩を少々加え、混ぜ合わせます。
パンケーキのように薄く延ばして均等に火を通します。
こんがりと焼き目が付いてきたら、ひっくり返して...
!?
何が起きたのかよく分からない人のために説明すると、せっかく焼いたパンケーキをわざわざ潰していました。しかも熱々のうちに行うのがポイントらしく、軍手とゴム手袋の2枚重ねで生地をこねるという手の込みよう。
一緒に居たUさんが体験してみたのですが、軍手をしてもかなり熱かったと言っていました。
5分程すると、ご覧のように跡形もなくなりました。生地にはギーというバターオイルを練り込んでいるため、かなりしっとりとした仕上がりとなります。
これをパンケーキと呼ぶべきなのか、パンと呼ぶべきなのか筆者には分からないのですが、とにかく予想外すぎて...笑
デーツとハチの巣をトッピングして、完成!溺れるくらいのハチミツをかけていただきます。
見た目のインパクトが凄すぎて「海外に居るんだな」と改めて実感。異国情緒を味わうなどを通り越して、強烈なカルチャーショックを受けました。
実際に食べてみると意外と素朴な風味でクセになる味わい。食感は歯切れの良い餅、味は「がんづき」そのものです。
ちなみに、がんづきは宮城全域で食べられる郷土菓子でアリーカと同じく小麦粉から作られています。サウジアラビア人にがんづきを食べさせたら、きっと「アリーカの味がするパン」といったリアクションをするでしょう。
山の幸を贅沢に使用したアブハー料理を堪能
昼食はアリーカの他にも、様々な郷土料理が振舞われました。
アシール地方は地理的な条件もあり、料理には山や里で採れた新鮮な野菜がふんだんに使用されています。アリーカと同様に小麦を使った料理のラインナップも豊富です。
肉料理にはヤギが使われていました。筆者はヤギや羊の肉が苦手なのですが、アブハーのお料理は臭みがなく食べやすかったです。ちなみに、イスラム教を信仰する国なので豚肉はありません。
既にお気付きの方も居ると思うのですが、外で食べると思いきや室内にテーブルがセットされていました。
ちなみに外はというと...また踊っていました!アブハーの人たちは本当に陽気ですね。
日帰りで行けるおすすめ観光地
ここではアブハーを拠点として日帰りで行ける観光スポットをご紹介します。アクセスは不便な立地なので、ツアーに参加して訪れるのがおすすめです。
リジャール・アルマー村(Rijal Almaa)
アブハーの西約50kmに位置する村で900年あまりの歴史を誇ります。
この村は聖地メッカとメディナを経由してイエメンやエジプトなどの国々を行き来する人々にとって理想的な場所にあり、交易ルートの中継地として発展しました。村には多くの歴史的建造物が残り、昔ながらの景観が訪れる人々を魅了します。
2023年9月現在、サウジアラビアには6つの世界遺産が存在し、これからの登録が検討される候補地を含めるとさらに10ヵ所以上あるといわれています。リジャール・アルマー村はその1つに数えられる貴重な遺産です。
中心部のアル・アルワン宮殿には Men of the Brightest Heritage Museum という博物館が併設されており、武器や骨董品が展示されています。こちらの建物は修復されていて見栄えも良いので見学に訪れてみてください。
マンマナー(Manmanah)
アシール地方のすぐ隣には、ジャザーン(Jazan)という州があります。マンマナーはジャザーン地方にある農園で、観光客向けにちょっとユニークな体験を提供しています。
この土地は4000年あまりの歴史があるそうで、オーナーの4代前の先祖がフランスに辿り着き、コーヒーを育てたのが始まりなのだそう。コーヒー発祥の地はアフリカのエチオピアですが、サウジアラビアは地理的に近いのでコーヒーの木が育つのも納得です。
ここでは、木の栽培から収穫、生豆の焙煎に至るまですべて手作業の本格派コーヒーが楽しめます。
また、昔ながらの調理法の実演も楽しめるので、大自然に囲まれて非日常的な体験をしてみたいという方は、ぜひお見逃しなく。
人に出会うアシール地方の旅
今回の旅行ではアシール地方では心優しい人々に出会い、その人たちが大切に受け継ぐ歴史や文化に触れ合いました。旅行のかたちは様々ですが、少なくともその良さを構成しているのは地元で暮らす人だと思います。
アシール地方は、そんな心温まる体験ができる場所です。
冒頭でも述べた通り、五感を通じて体感した出来事は不思議と記憶に残るものです。皆さんのサウジアラビア旅行も、「人」に恵まれる素敵なものになることでしょう。
リヤドやジェッダなどの大都市に+αで観光を楽しみたいという方は、ぜひアブハーを訪れてみてください。
やってみよっか?